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執筆者の写真間忠雄|Tadao Hazama

【会員コラム】間忠雄(5)倫理的反出生主義の普及を願って ~苦しむ人間存在がもはや誰もいなくなるために~(5)



 
寄稿者

間忠雄(はざま・ただお)

会員番号:50

正会員


41歳のプロテスタント信徒で、埼玉県在住。

れいわ新撰組、社民党、立憲民主党を支持。

疫病を機に反出生主義を選択するが、ヴィーガニズムには確信を持っていない。

好きなキャラクターはタンタン。

 

「出生」が個人の自由な選択肢ではなくむしろ「出生の停止」こそが、さもなければ生まれてくることが避けられない人間に対する「苦難の予防」として万人に課せられた義務である、という倫理的反出生主義の主張に一定のコンセンサスが得られた場合、それは一つの画期的なパラダイムシフトとなるだろう。


人間の社会が自己目的化された「継続」ではなく、「他者の苦難を予防し、全体の苦難に終止符を打つ」という明確な目的を持って再構築されるのだから、その確実な手段としての「出生の停止」が社会の構成員すべてに要求されることになる。

つまりその目的と手段に適った、政治・経済・教育のあらゆる方面にわたる体制の構築が求められるのである。


確かにそれぞれの綿密な構成において思わぬ課題に遭遇することが十分予想される。

たとえば安全保障政策は、倫理的反出生主義を国是とする国家に対する出生主義的膨張国家の主権侵害を予防しなければならない。

加えて住人不在となった国土を、たとえば難民の非難所に提供するなどの人道的活用の倫理的反出生主義的国民的遺書として国際社会が共同でその実現を保証しなければならない。


これはわれわれの日本国が先駆けて「出生の停止」を実行する場合に予測される課題のほんの一例なのであるが、むしろ倫理的反出生主義の主張によれば全世界が同時に出生を停止しなければならない、という議論もあるだろう。

各個共同体による逐次的停止か、それとも全世界に及ぶ一斉停止か、の問題がある。


確かに一斉停止こそ倫理的反出生主義の主張そのものなのであるが、生存をかけた熾烈な闘争の調停が困難を極める世界の現状を目の当たりにして、「苦しむ人間存在の終焉」を至上目標とするパラダイムシフトに目覚めた個人が出生を止め、さらに共同体として「出生しない共同体」の実現が果たされたならばどうであろうか。

それは一つの全く新しいモデルを全世界に提供することになるだろう。

従ってここでは、一斉停止よりも実現可能性の高い逐次停止の可能性について検討したい。


政治・経済・教育それぞれにおいて個々の課題が予測されるにせよ、100数十年間の持続可能な体制の構築が果たされるならば、それらの課題は克服できるといってよい。

しかしそれは、「あとは野となれ山となれ」という意味では決してない。

例えば原子力発電所は即刻停止に向けて動き出し、人間不在後はAIによる全自動式の管理体制が整っていなければならない。

要するに人間不在後に他の生物に被害を及ぼさないようにできる限りの手を尽くして終焉のプログラムを編成しなければならないのである(これまでの議論がすべて人間中心的であり、生物種の差別を認めない「無生殖協会」の趣旨に反する点については次回補足しておこう)。

加えて、逐次停止は諸国民に正の遺産を遺していくことが望まれる。


さて、一つの共同体における出生の停止は遺漏なきことを要件とするのである以上、刑法による取り締まりは極めて不適切である。

殺人や窃盗を完全に防げないという理由で出生が防げないということがあってはならない。

刑法はこの場合、出生しない社会体制の維持にのみ貢献されるべきである。


そこで提案したいのがすなわち、以下の通り示される「修道院型社会」の構築である。


① 独身男女の徹底的な隔絶社会


日本国を例えば東部・中部・西部の3つのエリアに分け、男性と女性と子供のいる家族に厳密に住み分ける。

当然中部が家族組。

チャイルドフリーの夫婦は独身組に分かれてもらう。

子供が成人になり次第親子ともに独身クラスへ。


② 家族クラス社会における異性の隔絶と夫婦の自制


学校、職場における男女の隔絶。

家族クラス社会では出生のリスクが残るので、極めて低いコストパフォーマンスによって出生を抑止する必要がある。

たとえば出生に伴って父親は仕事を辞め、子供が就学するまで育児に専念しなければならないとする。

母親は出産という負担をすでに負わされているのだからその生活にそれ以上の負担があってはならない。

婚外出生については男性側が多大な責任を負わなければならない。

男性側は既婚である女性の子供に対しても、婚外である女性の子供に対しても、養育費生活費を全面的に女性側に保証しなければならない。


③ 独身クラスの血縁関係の保証


独身クラスの住人は異性の肉親、祖父母に面会する機会が保証される。

その場合中部のエリアでの親族同士のみの接触が許される。

異性の兄弟姉妹は出生のリスクが伴うので面会できない(両親を伴う場合は認められるかもしれない)。

異性の叔父叔母(伯父伯母)の場合は、血の繋がりのある3親等であってかつ年齢差がたとえば30以上離れている場合に認められる。


以上のような修道院型社会においてなおも残される懸念は②の家族クラスにおける新たな出生のリスクである。

父親側に多大な責任と負担を負わせても、懲罰的発想では完全に予防することはできない。

加えて父親に対する負担は子供と母親の負担の軽減に直結した物でなければならない。

暴君的家父長に由来する家庭崩壊の兆しのある家族は子供と母親に最大限の生活保障を父親に負わせたうえで、独身クラスに分けるべきである。


円満な家族には夫婦に最大限の自制が要求されるが、夫婦一緒に過ごせるのはあくまでもすでに生まれてしまった子供のためであることを肝に銘じなければならない。

出生停止に動き出した国家の行く末を想起して、社会が想定している最後の世代を超えて世代を遺すことに罪責意識を覚えるように、教育がその務めを果たさなければならないだろう。


福祉政策は重要なカギである。

経済・外交・安全保障もすべて国民の福祉政策を中心に構成されなければならない。

想定される最後の世代に対する十分に行き届いた福祉が整っていなければならない。

AIによる介護・医療システムの開発に投資しなければならない。


小中学校は始動から順次13年後、16年後に廃校となるから、教職員の雇用も確保しなければならない。

高齢者のためのサポート業務に産業の機軸を転換する必要がある。


原子力発電所についてはすでに述べたがAI自動管理システムによる廃炉の技術が未完の場合、国際社会に理解と協力を求め、その後の責任を担ってくれる国家に国土と資産の管理を譲渡すべきである。


外交・安全保障分野について、倫理的反出生主義を国是とする国家に「自国ファースト」は一切無縁である。

諸外国との交易における赤字は、100数十年の体制維持に支障を来さない限り許容できる。

出生主義的膨張国家による暴力的な主権の侵害に対する抑止力は、核抑止力ならぬ「原発暴発」のリスクによって思いとどまらせる施策が検討されてよい。

いずれ終焉を迎える国家が危険な爆弾を腹に抱えていることが予め公開されていれば、深刻な環境汚染を引き起こす戦争をいずれの独裁者が望むであろうか。

それは後に残るものたちの敗北を意味するのである。

それゆえ新日本はこれまで以上に平和路線を追求すべきである。諸外国に一切の脅威を与えない国家、それが新日本、「倫理的反出生主義」を国是とする国家なのである。


その他綿密で専門的知識を要する課題が多岐にわたって存在するであろうが、目標達成のための実現可能性の見通しが高々「100数十年持続可能な」体制づくりであることが、新たなパラダイムへと世界に先駆けて向かうわれわれを鼓舞するに違いない。



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